第五話 いそぎんちゃく

10.谷間


 『乳女』の体は、在りえない柔らかさでシロフクを捕らえていた。

 ”くそぅ……畜生……”

 正面から絡みつく『乳女』の鳩尾に拳を撃ち込んだが、ほとんど抵抗無く肘辺りまでめり込んでしまった。 

続いてめり込んだ腕にしっとりした女の肌の感触が纏いつき、あろう事か愛撫するような感覚まで加わってくる。

 『あはぁ……奥まで来てるぅ』 よがる『乳女』。

 ”化け物め!”

 ねっとりとした不気味で異様な感触が、腕を伝ってくるのに耐え切れず、アカフクは懇親の力で腕を引いた。 

『乳女』の肌をめくれあがらせつつ、杭が抜かれるように彼の腕が抜け出してくる。

 ”ぬっ?……”

 『乳女』の肌が離れるとき、シロフクの肌に甘い疼きが残った。 手の芯が痺れているような妙な感覚がある。

 ”野郎!”

 妙な感触を振り払うように、もう一度拳をつき込む。 やや力が抜けたのか、今度は手首辺りまでがめり込み、そして。

 ”う……っ?”

 手首がジワリと痺れ、ふわり暖かくなる。 そして股間がきゅっと絞られる様な感触に襲われた。 シロフクは思わず

手を止めてしまう。

 『うふん……感じてるんでしょう』 背後から、もう一人の『乳女』が囁く。 『そのまま動かなくてもいいわよ。 いかせて

あげるから……』

 ”う……うう……”

 『乳女』の言うとおり、シロフクは手で感じていた。 『乳女』の中の拳に女の肌が吸い付き、ヌメヌメした感触を伝えて

いる。 手から力が抜け、拳が開く。

 ”いっ?”

 手のひらに『乳女』を感じる、指のまたに『乳女』が滑り込む、五本の指一本一本が、別々の口、別々の舌で愛撫

されているかのようだ。

 ”あ……あぁ……”

 腕が痙攣して自由にならない。 『乳女』の愛撫の快感が腕を伝わって、肩を硬直させる。 そして、腹のそこからこみ

上げて来るこの感じは。

 ”や、やめ……い、いぐぅ……”

 シロフクの手首が快感に震え、体が激しく痙攣した。 肺腑からありったけの空気が搾り出され、腹が波打つ。 信じ

がたいことに、シロフクは手でいかされてしまっていた。

 ”ふう……ふぐっ……”

 シロフクは、激しく咳き込み、息を整えることに専念する。


 『乱暴ね……もっとゆっくりいきましょう……』

 たしなめる様に『乳女』が囁き、シロフクの手を取って自分の胸に導き、その谷間でゆっくりとさする。 シロフクは、

不自然な快感の余韻で呼吸が乱れ、いまだに咳き込んでいた。

 ”げほっ……げほっ……”

 『まぁ……だいじょうぶ?……』

 背後の『乳女』が優しく囁き、シロフクの背後から白い腕を回し、その胸をゆっくりと撫でる。

 『だいじょうぶ?……だいじょうぶ……だいじょうぶよ……』 

 呪文の様に囁きつつ、『乳女』は白い果実をシロフクの胸に押し当て、円を描くように愛撫した。 シロフクの息が整い、

呼吸が楽になる。

 ”すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……”

 深く息を吸うシロフク、その肺に『乳女』達、『巨大いそぎんちゃく』の放つ甘い香りが深く、深く、染みとおり、少しずつ、

少しずつ、シロフクの意識に靄がかかっていく。

 『楽に……楽になってきたでしょう……』

 ”ああ……”

 頷き、意識をはっきりさせようとするシロフク。 何かを振り払うように、激しき頭を振るが、意識にかかる白い霞は次第に

濃くなっていく。

 ”くそっ……逃げないと……はやく”

 『慌てないで……』

 背後の『乳女』が両手をシロフクの胸から離し、入れ替わるように正面の『乳女』が体をすり寄せる。 二人の乳首が

吸い付くように触れ合う。

 『ほら……感じて』

 円を描いて、胸を擦り付ける『乳女』。 乳首と乳房でシロフクの胸に、愛撫の螺旋を描いていく。

 ”……”

 甘い愛撫の渦に意識が混沌としてくる。 自分が何をしようとしていたのか思い出せない、いや全てが忘却の渦に呑まれ

消えていく。

 ”う……う……”

 ヌルヌルした渦の感触に、シロフクはため息を漏らした。

 二人の『乳女』は、前後から乳房でシロフクを挟んだまま、儀式か何かの様に一定のリズムで動き続け、その円が次第に

大きくなっていく。 シロフクの胸を、わき腹を、顔を、乳房が舐めていく。

 ”?……”

 違う、二人の動きが大きくなっていくのではない、大きくなっているのは二人の乳房だった。 いつの間にかシロフクの

視界から『乳女』の姿は消え、巨大な白い塊が彼を覆いつくそうとしていた。 

 ”……巨乳だな……”

 間の抜けた考えが浮かんだ。 いまやシロフクは、前後左右を4つの乳に、そして腰から下は『巨大いそぎんちゃく』の乳に

挟まれた小人だった。

 フニフニと体を包み込む乳房は、彼の体を余すことなく包み込み、無限に続く優しい愛撫で彼の体を、いや魂までを解き

ほぐそうとしていた。 シロフクは頭がぼーっとして、体の中がふわふわと暖かく、たまらなく心地よくなってきたのを覚えた。

 ”ふぁ……”

 意識をしっかり保っていないと、溶けてなくなってしまいそうだ。

 『どうして溶けてはいけないの……』 どこからか、『乳女』が囁く。

 ”あー?”

 『ね、蕩けちゃいなさいよ……』

 ”うん……”

 『気持ち……いいわよ……』

 ”あぁ……”

 もうシロフクには、『乳女』の囁きに抵抗する術がなかった。 シロフクは考えることをやめ、『乳女』の愛撫に身も心も委ねた。

 ”あ……”

 絶頂は無かった。 ただ心地よさだけが高まっていき、体が周りの乳房と溶け合っていくのがわかった。 同時に意識が

『乳女』の中に溶け出し、薄く広がっていく。

 ”いい……いい……気持ちいい……おいしい……』
 
シロフクの意識は、『乳女』の中に広がり、やがて消えていった。

 パチュッ……

 小さな音を立て、『巨大いそぎんちゃく』の胸の谷間から白いしぶきが上がった。 それは、谷間に呑まれ白い迸りに

変えられたシロフクの名残だった。

 乳房の上を汚したシロフクのかけらは、迷子の様に乳房の上をウロウロと這い回った。

 すると、『乳女』達が乳房から姿を表し、シロフクの残りを招いた。

 シロフクの残りは、母親に幼児が駆け寄るように『乳女』に殺到し、その胸の谷間に滑り込んで消えた。 そして『乳女』も

姿を消す。

 誰もいなくなった『巨大いそぎんちゃく』の乳房、その谷間から小さな音がした。

 ペフ……

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